アメリカは明らかにオピオイド問題への対応に失敗した結果、今まさにその大きなツケを払わされている。なぜアメリカはオピオイド依存症をこれほどまでに状況が悪化するまで放置したのか。そこから日本が学ぶべき教訓とは何か。薬物依存症の蔓延を対岸の火事としないための必読の書。
* DOPESICK アメリカを蝕むオピオイド危機(ベス・メイシー (著), 神保 哲生 (翻訳))
タイガー・ウッズも見舞われ、プリンス、トム・ペティ、そして大谷翔平投手のチームメイトのスキャッグス投手の命を奪った鎮痛薬の罠!
本書は今やアメリカ史上最悪の麻薬問題となっているオピオイド蔓延の実態を余すことなく描いたドキュメントだ。今や依存症者数が400万人、年間死者も4万人を超えるオピオイド依存症の震源地となったアパラチア地方で地元紙の記者を務めていたベス・メイシーは、「夢の鎮痛剤」として大々的に宣伝されていた処方薬のオキシコンチンが、地域の高校生から働き盛りのビジネスマン、主婦、そして高齢者にいたるまで、無差別に人々をオピオイドも魔力に引き込んでいく様を克明に記録し、5年間にわたる取材の成果をこの一冊にまとめた。
本書にはオピオイドによって生活を根底から破壊された人々やその家族のほか、問題解決の前に立ちはだかる数々の政治的な壁、依存症を引き起こすことが分かっていながら欺瞞に満ちた営業攻勢をかけ続けた欲深い製薬会社と堕落した医師の癒着した関係、問題を過小評価した結果、全てが後手後手に回った行政の不作為、そして多勢に無勢を覚悟で問題に立ち向かう被害者の遺族や地域のボランティアたちの姿が、いずれも等身大で描かれている。
<オピオイド薬禍、米社会に影 10万人犠牲で損失1兆ドル>
米国で麻薬鎮痛剤「オピオイド」乱用による死者の増加が止まらない。2021年の犠牲者は約10万人に達し、過去の薬物問題をはるかに上回る。当初は処方薬による被害が広がり、処方規制後は致死性の高い違法オピオイドが麻薬としてまん延する悪循環に陥った。命を守るには医療的支援が欠かせないが、米社会の偏見や価値観が対応を遅らせている。2022年10月2日・https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN14DNM0U2A910C2000000/