現代の戦争は我々の「頭の中」でも起きかねない。
人間の「認知」領域は新しい時代における闘争において重要な要素を占めることとなり、
国家の安全保障上の一つの焦点となるであろう。
しかし、日本ではまだその重要性や脅威について認識が高まっているとは言えない。
我々はディスインフォメーションをどのように理解し、備えるべきなのか――
* 偽情報戦争 あなたの頭の中で起こる戦い(小泉 悠 (著), 桒原響子 (著), 小宮山功一朗 (著))
<本書の目次>(一部)
第1章 外交と偽情報――ディスインフォメーションという脅威(桒原響子)
第2章 中国の情報戦――その強硬姿勢と世界の反応(桒原響子)
第3章 ロシアの情報作戦――陰謀論的世界観を支える理論(小泉悠)
第4章 ポスト「2016」の世界(小泉悠・桒原響子)
第5章 情報操作とそのインフラ――戦時の情報通信ネットワークをめぐる戦い(小宮山功一朗)
第6章 民主主義の危機をもたらすサイバー空間――「救世主」から「危機の要因」へ(小宮山功一朗)
終章 日本の情報安全保障はどうあるべきか
「はじめに」より(一部抜粋)
偽情報を流布する行為(ディスインフォメーション・キャンペーン)は、武力を伴わない国家間闘争の一形態として認識されてきている。
この場合の主たる戦場は、我々一人ひとりの「認知」領域、つまり、脳である。アクターは、国家や組織、個人などさまざまだ。偽情報が「兵器化」されれば、社会や政治の混乱はもちろん、国家間対立の行方も変わってくる。(中略)
人間の認知は、間違いなく、現在、そして遠くない将来、国家間闘争において重要な要素を占めることとなり、認知領域が、国家の安全保障上の一つの焦点となると見られている。しかし日本においては、偽情報に対する脅威認識が世界の主要国と比較して著しく低いのが現状である。それは、日本がこれまで海外からの偽情報の深刻な被害にあってこなかったことにほかならない。(中略)
本書は、認知領域における身近な脅威としての偽情報について、若手専門家3名による立体的考察を試みている。
今後日本に必要となる対策を検討するうえで、海外の事例をはじめ、サイバー空間の利用がもたらす弊害、民主主義との関わり、政府やプラットフォーマー・民間団体・市民社会・個人が果たすべき役割、規制のあり方など、多角的視点からの議論が重要となる。本書が世界各地で展開される偽情報の恐ろしさを理解し、海外からの偽情報を見分けつつ、情報戦を有効に展開することがいかに重要かを認識する手助けとなり、今後、日本においてディスインフォメーション対策と効果的な情報戦略が進展することを願っている。