<賛否呼ぶ「刑法39条」…悲惨な事件が報道される度に問われる「刑事責任能力」とは>
私は日本の刑法の責任能力、否定的に考えるのですが、諸外国の実情と、それを改正すること、どう考えればよいのでしょうか
<ChatGPT>
なるほど、日本の刑法における責任能力(刑法第39条など)について否定的に考えておられるのですね。
では、まず現状と諸外国の比較を整理し、その上で改正に向けた考え方を論理的に整理してみます。
- 日本の刑法における責任能力の現状
刑法第39条
1項:心神喪失者の行為は罰しない。
2項:心神耗弱者の行為は刑を減軽する。
趣旨は、「責任非難の基礎である行為時の認識・制御能力が欠如または著しく低下している場合は刑罰を科すべきでない」という考え方。
実務では精神鑑定によって判断され、精神障害、発達障害、認知症、薬物中毒などが対象になる場合がある。
問題点としてしばしば挙げられるのは:
「責任能力の有無」判断が鑑定医の意見に強く依存する。
社会的影響の大きい事件で「心神喪失」とされると国民感情との乖離が生じる。
被害者・遺族から「逃げ得」感があるとの批判。 - 諸外国の実情
国によって考え方はかなり違います。主に以下のパターンがあります。
(1) 責任能力否定型(伝統的無責任主義)
ドイツ、フランス、韓国などは、日本同様に「心神喪失なら刑罰なし」という立場。
ただし、刑罰を科さない代わりに「保安処分(治療・収容)」を長期間行うことが可能。
例:ドイツ刑法 §63「刑事責任がない者でも、社会防衛のため精神病院への無期限収容が可能」。
(2) 責任能力減免型(アメリカ型の一部)
アメリカでは州ごとに異なるが、無罪だが治療収容(NGRI: Not Guilty by Reason of Insanity)が多い。
一部の州(カンザス州など)では「心神喪失の完全無罪制度」を廃止し、刑罰と治療を併用する形を採用。
イギリスは「責任能力減退(diminished responsibility)」を殺人罪の減軽事由として導入し、完全無罪よりも減刑が中心。
(3) 処遇重視型(治療と刑罰の融合)
ノルウェー、スウェーデンなど北欧では、心神喪失でも刑事施設と医療施設の連携を重視し、社会復帰プログラムが整備されている。
刑罰か医療かという二分法ではなく、「危険性がある限り自由を制限しつつ治療」という柔軟方式。 - 日本の改正議論の方向性
否定的な立場からは、次のような見直し案がよく挙げられます。
責任能力の有無を二分法でなく連続的に評価
例えば「完全無責任」をなくし、すべて減刑幅や処遇方法で調整。
実質的に「刑は科すが、医療刑務所や治療プログラムを優先」。
保安処分制度の強化
ドイツ型の「刑事責任なしでも無期限治療収容」を導入。
危険性が消えるまで社会復帰させない。
医療刑務所・治療施設の拡充
現行の「医療観察法」は対象が限定的で、刑罰対象者とは切り離されている。
刑と治療を一体化する制度へ。
鑑定制度の透明化
鑑定医の意見のばらつきを減らし、複数鑑定や公開性を高める。 - 考えるべき観点
改正を検討する上では、次のバランスが重要です。
責任主義の原則:刑罰は責任がある人にだけ科すという基本理念をどう扱うか。
社会防衛:再犯防止のための拘束や治療。
被害者感情:刑事司法の信頼性と納得感。
医療資源:収容・治療を行う施設と人員の確保。
国際人権基準:心神喪失者への不当な処遇や人権侵害を避ける。
もしあなたが「日本は刑罰免除型をやめるべき」と考えるなら、参考になるのはアメリカの一部州やイギリス型の「減刑型」か、ドイツ型の「保安処分強化型」です。
どちらを取るかは、「責任能力を否定しても自由を制限できる期間を長く確保するか」か、「責任能力の概念自体を縮小するか」で変わります。
<賛否呼ぶ「刑法39条」…悲惨な事件が報道される度に問われる「刑事責任能力」とは>
2025年6月1日より「懲役」と「禁錮」が廃止され、2025年6月1日より「拘禁刑」という新たな刑罰へ一本化されました。従来の「懲らしめ」重視の処遇から、受刑者の「立ち直り」を重視した指導へと転換を図るものです。
法は、自然科学のような不変の法則とは異なり、時代に応じて「解釈」を変え、あるいは新たに「立法」することで常に変化し続けています。
本記事では、法に関する身近な疑問をやさしく解説した入門書『はじめまして、法学 第3版』(中央大学法学部教授/遠藤研一郎・著)から一部を抜粋してお届け。今回のテーマは、刑法と責任の所在についてです。 7月30日・遠藤研一郎( 中央大学 法学部 学部長)・https://wedge.ismedia.jp/articles/-/38377