「発刊にあたって」より――
現在、国家の安全保障に関わる最前線では、日進月歩の新技術が大きな影響を与えています。宇宙・サイバー・電磁波といった領域の急速な拡大や人工知能化も含む無人アセットの多用化などは、国家の安全保障の在り方を根本から変えつつあります。[…]我が国でも、安保三文書において、新たな戦い方が顕在化する中で、それに対応できるかどうかが今後の防衛力を構築する上での課題とし、宇宙・サイバー・電磁波といった領域や無人機・ドローンの活用に関する自衛隊の能力強化の方針が示されています。
このように、新たな戦い方に備えることが我が国安全保障にとって死活的に重要になっていますが、新たな戦い方に関わる新領域は在来分野と異なる多くの特徴を持っていることから、自衛隊の能力強化とあわせて、自衛隊が実際にその能力を発揮できるように法的基盤を確立しておくことが必要です。
たとえば、サイバー領域では、どこまでが平時で、どこまでがグレーゾーンか、どこから武力攻撃か不分明で、その間の移行も瞬時に起こり得ます。また、サイバー上重大な事象が発生した場合も、安全保障分野の事案か、民間分野の事故か判別がつきにくく、そもそも、攻撃を受けていること自体の把握も課題になり得ます。このようなことから、サイバー領域に関わる安全保障においては、サイバー領域における平素からの攻撃の監視、攻撃者の特定、攻撃への対抗措置からなる能動的サイバー防御に取り組むことが必要となります。我が国においても、安保三文書で「能動的サイバー防御を導入する」とされていますが、その実施には様々な法的課題を解決しておかなくてはなりません。
* 新領域安全保障 サイバー・宇宙・無人兵器をめぐる法的課題(笹川平和財団新領域研究会 (編集))
世界で相次ぐ戦争の中で、熾烈なサイバー攻撃や、作戦遂行に欠かせぬ宇宙の人工衛星、
戦場を飛び交う無人機やドローンといった「新しい戦争の形」が浮き彫りになりつつある。
台湾有事の危機が高まる中、それは将来の日本が直面する戦場の現実である。
しかし、現在の国内法・国際法の議論は、そうした戦場の急速な変化に追いつけていない。
自衛隊幹部OB、法学者、弁護士などからなる「新領域研究会」(座長・佐藤謙元防衛事務次官)は、そうした論点について2年に及ぶ議論を交わし、各メンバーがサイバー・宇宙・無人兵器をめぐる様々な法的課題を分析。日本の安全保障の鍵を握る「新領域安全保障」の姿を探った。
<本書の目次>
発刊にあたって(佐藤謙)
第一章 領域横断のあたらしい戦争の形(研究会事務局、大澤淳、長島純)
第二章 国際法の適用枠組みと国内法(真山全、橋本豪)
第三章 サイバー領域の安全保障様相と法的課題(研究会事務局、住田和明、大澤淳、松浦一夫、河野桂子)
第四章 宇宙・電磁波領域の安全保障様相と法的課題(長島純、研究会事務局)
第五章 無人兵器の安全保障様相と法的課題(研究会事務局、渡邊剛次郎、岩本誠吾)
おわりに――新領域の安全保障体制のあり方と法的課題(提言)(研究会事務局)